ピアニストの身体
「ピアニストの身体はアスリートと同じ」
一瞬驚く方もいるのですが、実はよく言われることです。
小さい頃から長時間の練習を積み重ねると、アスリートと同じように身体に無理が掛かることがあります。
同業者はあまり多くを語ろうとしない傾向にありますが、
治療院に行くと、著名な演奏家とすれ違うことが少なくありません。
多くを語ろうとしない理由の一つには、例えば故障していることを知られたくない、ということもあるかもしれません。
故障しているとお仕事の声が掛からなくなるという不安から、密かに治療をしている人が案外多いものです。
もちろん、治療ではなく大事に至らないようにメンテナンスをしている方もたくさんいらっしゃいますし、
腱鞘炎までいかなくても、何かしらのトラブルや練習過多で疲労が溜まり、
ケアされている方も多くいます。
また職業病なのか、突発性難聴になる方もよく聞きます。
私も一度患ったことがあり、3ヶ月半ピアノが弾けなくなってしまい、
プラスチック袋を開ける音など、特定の周波数の音が爆音に聞こえる様になってしまいました。
耳に関しては繊細な器官ですので対処法は難しく、
私が患った時も医師には原因が分からないと言われました。
しかし思いつくのは、その頃、消音ピアノを使用していて、
ヘッドフォンを付けて夜中に練習していた時期でもあったので、
原因の一つなのかもしれません。
身体や腕に関しては、
「弾き方が悪いから腕が痛くなる」
「弾き方が悪いから腱鞘炎になる」
というのは事実で、良い弾き方をしていれば手を壊すことはないと思います。
しかし、生まれ持った手の性質や骨の位置は人それぞれで、若干のハンディがあったり、
人によっては手を壊しやすい性質の方もいらっしゃることは、
理解しないといけないと思っています。
自分の身体と対話をすること
大事なのは、練習の時に自分の身体と対話をすること。
これは当たり前のようで、見過ごしがちかもしれません。
手の場合、少し腕が重たくなったり痛くなってしまっても、
最後まで無理をして弾き通そうとしてしまうこと、ありませんか?
弾き始めたら音楽は最後まで止まってはいけない、という理由から、
身体のサインを無理に押し切って弾き続けると故障してしまいます。
無理をせずに一旦、止まりましょう。
そして、
何が悪いのか?
どうして痛くなるのか?
どこに力が入ってしまっているのか?
一度、立ち止まって身体と向き合いましょう!
痛くなるということは必ず原因があります。
痛くても弾き続ける根性、それは誤ったやり方です。
特に、「姿勢」「脱力」「音の出し方」を細かく見直していくと、
必ず解決方法が見つかります。
身体のメンテナンス
小さいお子様は身体が柔軟で、よく運動をされていますし、
オクターヴの連打など、手に負担がかかる曲は弾かれないので故障を聞くことは滅多にありません。
一方、少し手が大きくなりますと曲も難しくなってきますので、
練習曲など最後まで弾き通せないケースがあります。
そういう時は無理をしないで原因を探すことが大切です。
疲労が溜まって痛みが出てしまった時、炎症を抑えるために冷やすことが良いそうです。
炎症を広げないで、その場に止まらせてくれる効果があると聞き、
本番前の長時間練習で違和感を感じた時、熱を持ったところを冷やしていました。
またイタリアの自然治療を専門とする薬局では、
ヴェレダ社のアルニカオイルで優しくマッサージすることをお勧めされました。
イタリアのコンサートなどでトランクを運びながらの移動は腕や足に疲労が溜まるので、
移動する際にはいつも持ち歩いていた必需品です。
このオイルは日本でも購入できます。
また身体全体を冷やすことは良くないので、
リラックスして副交感神経を有意にさせるお風呂はとても良いそうです。
私は練習で身体がバキバキな時、湯銭の中にマグネシウム塩を入れて温まる様にしています。
そして軽い運動!
身体は柔らかい方が故障のリスクが減ります。
友人のピアニストたちは、ピラティスやヨガをしている人が多く、
みんな効果を感じている様です。
(私はピアノに応用が効きそうな卓球が気になっています)
最後に、自分でメンテナンスができない部分は、迷わず専門家に任せましょう!
私は健康オタクほどではないのですが、
イタリアの名医と言われるお医者さんに手首を捻られてしまい、
全治半年の大怪我をしてからは、情報を集めては先生を訪ねています。
(捻られてしまってから違和感がずっとあり、大後悔しています…)
今は予防医療や整体、整骨院、鍼灸院、漢方など、様々な先生にお世話になっています。
これまで大きな病気をしたことはないのですが、
心も身体も健康でないと長く弾くことができません。
先日、オリンピックのメダリストや選手を治療する専属の先生とのご縁があり、
早速行って参りました!
2時間以上も細かくメンテナンスし、診て下さり大感謝でした。
驚いたのは自分では気づかなかった左手親指の骨が外れたまま弾いていたこと…
手首に6cmも鍼を入れてた後にポキっとはめて下さったり、
NASAの方が開発したウォーターベッドや、
手術をしないでも筋肉や神経を再生する特注の機械、、、
先生からのお話も目から鱗でした!
自分の手が届かない箇所は専門の先生に聞いて、
自分の身体に合った対処法を教えて頂くのがベストだと思います。
若い時は過信していた自分の身体。
体育会系で、運動で鍛えた体力やメンタルに自信がありましたが、
年を重ねるとそうもいきません。
特に声楽家の方々は身体が楽器ですので非常に念入りで、
身体へのケアは人一倍気を使われているので、学ぶことが多いです。
また疲労はミルフィーユ状の様に蓄積されるものなので、
問題がない時から気を付けることに越したことはないです。
そして何より、日頃から正しい弾き方・姿勢を意識して、
故障のない身体を作っていきましょう!