チェンバロの先生のお宅
フォルテピアノを学んだ後、バロック音楽を更に深めたいという意欲が増し、
フォルテピアノ科、ピアノ科を卒業した後に、チェンバロも学び始めました。
フィレンツェのケルビーニ国立音楽院で、アルフォンソ・フェーディ先生にゼロから教えを受け、
これまで経験したことのない、バロックの世界にのめり込みました。
それまでバッハやスカルラッティ、ヘンデルなどピアノで弾いてきましたが、
チェンバロを学び始めてから、新たな視野が一気に広がり、
目の前に果てしなく壮大な風景が見えるようで、当時は正に取り憑かれたように”のめり込み”ました。
限られた学生生活の中で一つでも多くのことを知りたくて、
レッスン日は一日中、クラスメイトの聴講していたことは、
チェンバロの向上に大いに役立ちました。
ある日、「お食事をご馳走するから自宅においで」とご招待して下さり、
お食事に加えて先生のご自宅でレッスンを受ける機会を頂きました。
フランス・バロックがお好きな先生は、エレガントな雰囲気を保つために自宅でも私服がスーツ!
この日も変わらずスーツ姿で出迎えて下さり、
忘れもしない、お部屋に入った瞬間にバロック時代にワープしてしまった感覚になり、言葉を失い、
また別世界を知ってしまった感じがして、大興奮したのを覚えています。
まるで美術館の様なお宅!
家具や絵画は、骨董品屋さんやオークションに出向き、主にバロック時代のものを少しずつ揃えたそうです!
バロック音楽を弾くために、バロック時代のものに囲まれ、その香りや雰囲気、エネルギーを感じながら練習するというこだわり。
古時計のカチ、カチ、カチ、ゴーーーンという音や、羽ペン、骨董の花瓶に生けてある山から摘んできたお花…
もちろん時代は日々進んでいくわけですが、その分、バロック時代を理解することに徹底している先生の姿に、感銘を受けました。
夜、薄暗くなるとバロック時代のキャンドルスタンドに灯りを灯し、
ゆらゆら動くキャンドルの炎を見ながらバッハを弾かせて頂いたことは、
今でも振り返るとテンションが上がるくらい感動的な経験でした。
その時の感動が忘れられず、翌日、早速キャンドルを灯しながら、
自宅でバッハを練習していた自分を思い出すと苦笑してしまいます…
日本は地震が多い為、キャンドルを使うことは躊躇してしまいますが、
ヨーロッパの方々は今でも夜になると灯りを愉しんでいます。
月の光でバッハは写譜をしていたという話も残っていますが、
当時の明かりは今の様なLEDライトはなく、月やキャンドルの揺れるような明かり、
ランタンや簡単な照明、もっとシンプルなものだったと思います。
時には、その時代に想いを寄せながら、クラシック音楽を味わう時間を大切にしたいですね ♪